複雑な想いが交差するガリレオシリーズ第9作目 『沈黙のパレード』 著・東野 圭吾

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まえがき

僕は、合理性と人の心が生み出す非合理性の狭間で葛藤する湯川学という、天才物理学者が大好きだ。物理という学問を探求し、論理的で合理性のある思考を好む彼だからこそ、「正しさ」だけでは説明ができない人の心の動きに誰よりも敏感で、時として、合理的に導き出した自身の行いに苦悩する。
その姿が最高に「人間」であると感じるし、痛く共感をする。

本作の表紙裏に書かれた一言から、一気に引き込まれた。
”容疑者xはひとりじゃない。”
この『容疑者x』とは、本シリーズの代表作『容疑者xの献身』で、湯川が逮捕した人物を指すものであり、同時に、「愛する誰かのために罪を犯す悲しき人物」を指す代名詞でもある。

前述したとおり、天才物理学者が自らたどり着いた答えと判断に、ひどく苦悩し、読者も思い馳せることとなる傑作だ。

シリーズのファンは、この導入により、ページを捲る手は少し重くなりつつも、ある種の覚悟を持って読み進めていく決意を抱くのかもしれない。

テーマの一つである「沈黙」。
それぞれの登場人物が長い年月の中で熟成された想いを胸に複雑に絡み合っていく。
伴侶や家族、親友に向けた愛ゆえの「沈黙」と、純粋な悪意が生み出す「沈黙」が混じり合いながら。

ミステリー好き、並びにガリレオファンは必読すべき本作。
映画化もされるのだから、たまらない。

スッキリ、気持ちよくなんて決してさせてくれない。
だからこそ、単なる娯楽の読書ではなく、人生観の彩りとなる読後感を与えてくれるこの作品をぜひ、手にとっていただきたい。

作品を通して、湯川が好んで食した『炊き合わせ』。
耳馴染みのないものだったので、調べてみると、どうやら煮物のことらしい。
複数の食品をそれぞれ別に煮ること、およびそれらを1つに盛り付けた料理とある。

芋の炊き合わせ
麸と湯葉、エンドウとシイタケの炊き合わせ

この料理が提供されるのは、作品の舞台となる被害者家族が営む小料理屋であり、登場人物たちが長い期間煮詰めてきた、それぞれの思惑が交差する場所でもあるのだ。

邪推かもしれないが、『炊き合わせ』を好んで食す姿は、湯川が論理的には説明しきれない「人びとの交わり」に歩み寄ろうとする姿勢そのものと重なるようにも思えたのだ。

読了.23.01.29

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沈黙のパレード
作品名沈黙のパレード
作者東野 圭吾

『ガリレオ、再始動!』
シリーズとしては、6年ぶりの単行本が、長篇書下ろしとして堂々の発売!

容疑者は彼女を愛した普通の人々。
哀しき復讐者たちの渾身のトリックが、湯川、草薙、内海薫の前に立ちはだかる。

突然行方不明になった町の人気娘・佐織が、数年後に遺体となって発見された。
容疑者はかつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。
だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。
さらにその男が、堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を「憎悪と義憤」の空気が覆う。

かつて、佐織が町中を熱狂させた秋祭りの季節がやってきた。
パレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたか。
殺害方法は?アリバイトリックは?
超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。

第一作『探偵ガリレオ』の刊行から二十年――。
シリーズ第九作として、前人未踏の傑作が誕生した。

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